2015-06-10
【小説】宇宙人相場 レビュー
旅行中に読了しました。まめたん以来のハヤカワ×芝村作品です。
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宇宙人相場
あらすじ
高野信念は、趣味が高じてオタクショップの経営者になってしまった35歳。偶然であった病気がちの女性・妙と交際しているうちに、彼女の父親から彼女と過ごす時間を増やすためにデイトレードを進められ、在宅個人投資家に転職した。少しずつ取引を増やしていくうちに、金融の世界に魅せられていく高野。しかしある日、サーバーの事故で多額の損を出してしまう。その事故と、時折届く、人間を観察しているかのような謎のメール―二つの関連性に気づいた高野は、一つの大きな勝負に出る。一方その頃メールの主も、高野に接触しようと動き出していて―
感想
芝村氏の最新作です。芝村氏といえば戦争物(それもドンパチ中心というより、戦争力学や準備段階に力点を置いたもの)という印象ですが、今回は全く異なる、金融工学をテーマにした話です。
僕は金融取引には興味がない人間でしたが、いろいろと勉強になりました。主人公が手がけるのは「スカルピング」という、「1円値が上がったら売れ、5分値が動かなければ売れ」という、短期間のうちに大量の売買を行う取引です。とにかく多量の取引を行うため、先を読むというよりは反射神経が求められる取引で、元々高野も反射神経の良さに目を付けられて妙の父親から転身を勧められます。集中力の関係上1時間くらいしか取引出来ませんが、その間の稼ぎで生活費を捻出し、余った時間を妻との時間に充てる、というやり方で人生を回していこうとするわけです。最初はスカルピングの基本に沿って、そのうち元手を増やし、レバレッジを掛け、と大きな取引に進んでいきます。もちろん失敗することもありますし、展開的にはご都合主義の部類に属する話でしたが、これまで知らない世界を垣間見れて楽しめました。
また相変わらず人間の心理描写がうまい。特に取引がうまくいっている時は何でも前向きに考えられるのに、大損を出した時は顔に出さないようにしているつもりがいろんなところに影響が出て、全てが悪い方向に転がってしまう、という中盤あたりの展開は色々身に覚えがありすぎて、さすが芝村氏だなーと。
もちろん、芝村氏お得意の、面倒くさいヒロインも健在ですよ。今回は病弱キャラという割と(氏にしては)珍しい設定ですけど、出てきて1ページで「うわ、この娘めんどうくさいわ」と思わせるところはさすが。 そして最後には、そんな娘に振り回される高野や父親に感情移入してしまうという話でした。是非家族を養っている夫や父親の皆さんに読んでいただきたいです。
「とにかく、ほっとかない」
「別に、昨日今日はたまたま調子が悪かっただけです。たまたまです。それに高野さんだけが私を介抱してくれるわけじゃないですし」
「いや、ろくでもないのがいるかもしれないだろ」(中略)「そもそも介抱されなかったらどうするんだ」
「じゃあ、ずっと病院で寝たきりになれと言っているんですか」
「そんなことは言ってないだろ」※58ページより引用