2014-03-10
【小説】富士学校まめたん研究分室 レビュー
ハヤカワ文庫なので、電車の中でカバーなしに読んでも恥ずかしくないやい!
富士学校まめたん研究分室
あらすじ
陸上自衛隊富士学校勤務の藤崎綾乃は、自分でも認める「めんどくさい女」。セクハラ騒動に巻き込まれて閑職に飛ばされた彼女は、辞めさせられるまえに自分の価値を周囲に分からせることが最大の復讐になると考え、得意とするロボット戦車の研究開発を開始する。なぜか彼女に親切な同僚・伊藤信士が、自分の苦手とする部分を引き受けたこともあり、上層部に承認されたロボット戦車の研究はいよいよ目標に向けて進み始める。しかしその頃、朝鮮半島の情勢が緊迫化。まめたんと名付けられた新型ロボット戦車の開発が急がれる中、突如富士学校に謎の組織が攻撃を仕掛けてきた!―
感想
芝村氏の最新作です。前作(といっても特につながりはない)の「この空のまもり」(yukkun20の感想はこちら)と同じような感じで(というより氏の作品は大体そんな感じなんですけど)、戦闘シーンは割と淡泊で、むしろ戦闘に至るまでの流れを非常に丁寧に描いた作品です。
後書きで書かれているとおり、一応自衛隊が舞台でロボットも現代科学の枠に収まっている代物(といっても多分現実世界よりはちょっと発展している)なのでリアルに近い世界観なのですが、物語の盛り上がりを重視するためにフィクションも大量に投入しているそうです。といってもぼくにはその境目はわからず、普通に楽しめました。
主人公の藤崎さんは、技師としては非常に優秀な方なんですけど、作中でも「この人頭よさそうだなー」というシーンが随所にちりばめられていて、読んでいて勉強になります。たとえば彼女は退職までの期間になにかの研究をしようと思い立つんですが、その後の検討順序が、
大まかなスケジュールを決める→得意なことを生かしてロボット戦車を考えてみようと決める→現在までのロボット開発の歴史を振り返り、現時点でのトレンドを考える→現場、上層部、政治のどれが求めているものをつくるかを決める→上層部が求めているものを分析する→それに沿ったロボット戦車の基本コンセプトを決める→その分野の先行研究を学び、それを発展させるアイデアを模索する
みたいな感じで、しっかりしているんですよね。その後も大砲を搭載するのか、足回りはどうするのか、操縦はどうするのかなど細かい点を考えて、今度は上司を説得し、上層部を説得してもらってプロジェクトとして立ち上げて…みたいなことが延々描かれています。自分はサラリーマンをした経験がなく、企画を立てるというのが極端に苦手でもあるので、非常におもしろく読めました。
主要な登場人物は、主人公の藤崎さんと同僚の伊藤氏くらいしか登場しないのですが、このふたりの人間模様も実におもしろい。これについては語ってしまうと興がそがれると思うので、是非読んで確認してみてください。いつもの芝村作品が好きな方なら(特に「この空のまもり」を楽しめたのなら)、これも肌に合うと思います。
しかし芝村氏はめんどくさい女の人を書かせたら天下一品だなぁ。
「それと、外では名前で呼んでくれ」
彼はドアを開けながらいった。
「お願いですか、命令ですか」
「要請だ」
私は10秒考えた。右下を見る。
「いいですけど、私は何か貰えるんですか。それで」
我ながらひねくれた回答だった。言った後で赤面した。彼は頷いた。
「分かった。僕も君を名前で呼ぼう」
「力いっぱいやめてください」
※58ページより引用
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