2020-03-22
【小説】風とタンポポ~惑星環物語~ レビュー
森岡先生の最新作(と言っていいのかは疑問ですが)読みました。やっぱり森岡先生の小説は最高だ!
風とタンポポ~惑星環物語~
著者:森岡浩之
レーベル:アークライト ノベルス
価格:1500円(税別)
ページ数:344ページ
表紙など
表紙イラストは、季刊エスにも寄稿しておられる碧風羽先生です。季刊エスで拝見したイラストと比べると、こちらは主線がしっかりと引かれていて、イメージとは違ったタッチになってるような気がします。描かれているのは主人公(と明確に言っていいのかは分かりませんが)の葦沢すばる嬢ですね。服装は軍服っぽいですがまさに軍服で、右手に握っているのは指揮杖(一般的なものではなく、星界で登場するのに近い、実際に指揮を出すためのデバイス)です。
ただこんな素敵なイラストなのに、作中には先生の挿絵はなく、あとは私服姿のすばるの口絵イラストと、すばるの姉であるゆうづつとなつひの2人を描いたモノクロイラストしかありません。もったいない。
帯には「深宇宙から飛来する謎の小天体群 人類の存亡は平凡な三姉妹に託された 森岡浩之のディザスターストーリーを初書籍化」とあります。
あらすじ
人類が宇宙空間に進出し、コロニーで生活するようになった時代―
新宇宙から太陽系に向けて、無数の小天体が飛来してきた。「カリポス・ベルト」と名付けられたその小天体は、当初は自然現象と考えられていたものの、調査の末、何らかの意図を持って太陽系に接近している生命体「ルピアン」と微少な天体の集合体であることが発覚する。木星系で増殖を始めたルピアンに危機感を抱いた人類は、国際空間義勇軍を創設し、迎撃態勢を整える。人類にとって未曾有の危機―心理テストの末、迎撃作戦の指揮官に選ばれたのは、機動都市・瑞穂に生活する三姉妹の三女(高校生)・葦沢すばるだった。
平凡な女子高生から突如人類の存亡を鍵を握る地位に就いてしまったすばる。同じく徴兵された長女・ゆうづつ、自ら自衛官に志願した次女・なつひと共に、準備も整わないまま迎撃戦の日を迎えるのだが―
感想
森岡先生の短編を読んだ方にはお馴染みの、ものすごく(いい意味で)予測のつかない物語が展開されます。て
個人的に好きなキャラは、迎撃計画を含めた全体計画の立案者の一人・中島ですね。最初に読んだ時は、いかにも官僚…というか法律家っぽいキャラで、すごく感情移入しながら読めたのですが、再度読み直すと、彼の内心いかばかりか…とぐっとくるものがありました。嫌味っぽい台詞が全部嫌味じゃなかったというある意味こちらもどんでん返しでしたね。
「もう、いいわ」知事は投げやりに、「異議を唱えてもしょうがないんでしょ」
「いえ。皆さんにはなるべく気持ちよく働いていただきたいのです」
「よくいうわ」知事は信じていないようだった。
「ですから、解決可能なことならば、善処します」
「じゃあ、いわせてもらうけど」彼女はデスクから身を乗り出した。「わたしが少将で、高校生が中将ってどういうことよ!」
「残念、解決不可能でした」中島は肩を竦めた。
※124ページより引用
突如襲来するよく分からない生命体と、突如戦いに巻き込まれた市井の人々という構図は、「突変」にも通じるものがあります。どちらも敵性生命体との意思疎通が不可能なので、人類側で結束して組織を作って対策を考えて人々の思惑をとにかくまとめて―という流れが、近未来でありながらリアルに描かれていました。突変よりも短いですし、コンパクトにまとまって読みやすいので、先生のファンならずともちょっと変わったSFが読みたい方におすすめです。後書きで先生が、「すごく面白い」と自画自賛しておられるのも納得の作品でした。
かつてWeb連載していたときに見逃していたyukkun20にとって、この作品の書籍化は悲願でした。徳間書店さんありがとう!
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