2016-10-19
【小説】君の名は。Another Side:Earthbound レビュー
まさかの4日連続。本当は日記の中心はレビューであるべきなんですけどね…
君の名は。Another Side:Earthbound
著者:加納新太
レーベル:スニーカー文庫
価格:620円(税別)
レビュー
先日紹介した映画「君の名は。」のスピンオフ小説です。作者の加納先生は映画のシナリオ協力として制作にも関与されている方なので、映画との親和性は高いですね。全四話のオムニバス構成になっています。
第一話は、序盤で三葉と入れ替わった瀧の視点で描かれる「ブラジャーに関する一考察」こんなタイトルなのでコメディだと思われるでしょうけど、その通りです。思春期の高校生が女の子の体に入ったらどれだけ困るのかということを面白く描いています。劇中で瀧が三葉の体でバスケをするシーンがあるのですが、その時に男子の注目を集めていた理由も分かりますよ。
第二話は勅使河原の視点で描かれる「スクラップ・アンド・ビルド」。作中で勅使河原たちがテーブルをDIYで作るシーンがありますが、なぜそういう発想に至ったのか、そしてラストシーンで勅使河原があそこまで三葉に協力しようと思ったのかが描かれています。てっしー(このあだ名は別の人を想起させるなぁ)は作中では気のいい男子みたいな描かれ方ですが、非常に深く物事を考えていると言うことがよく分かりました。
第三話は四葉の視点で描かれる「アースバウンド」。序盤は入れ替わりによって生じる姉・三葉のおかしな言動を描いていますが、後半は二人に流れる宮水の血についてのシリアスな話になっています。つーか四葉はお姉ちゃん好きすぎでしょ。
第四話は、三葉の父俊樹の過去話と、映画終盤のエピソードを俊樹視点で描いた「あなたが結んだもの」。三葉の母親はどういう人物なのか、なぜ彼女の死後に俊樹は家を捨てたのか、そして映画のレビューで述べた、「なぜ俊樹は三葉の計画に協力する気になったのか」が描かれています。非常に観念的な話が挟まれたりしてやや難しい話でしたが、一応謎は解けたって言っていいかな。映画本編で描くべきだったとも思えますが、入れたら入れたで蛇足だった感じもするなぁ。結局三葉の母が言うとおり、「あるべきところに自然に導かれ」たということでいいのかな。三葉と瀧の入れ替わりという奇跡も含めて。
すべての話が映画の裏話になっているので、映画を視聴後、記憶が薄れないうちに読んで欲しいです。特に第四話は映画のクライマックスを補完するものとして価値が高いと思います。映画も2倍楽しくなりますので、映画が楽しめたのであれば必読だと思いますよ。文章も読みやすかったですけど、挿絵がなぁ。特に第一話の挿絵はひどい。あの角度の鏡にあんな鏡像は絶対映りませんよ。
性別が違えば、やはり気持ちの壁というものはある。
向こうにもあるし、こちらにもある。
感覚が違いすぎる。
だから、正味のところで、本音の話はしたことはない。こちらもそうだし、向こうもそうだろう。
だが、このとき――土地の言葉でカタワレ時と呼ばれる《彼は誰刻》の光線と闇のあわいで、《言ってもどうせ通じない》《聞いてもどうせわからんだろう》という、勅使河原の中の断絶のようなものが埋まって消えた。
※第二話(110ページ)より引用
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