2016-03-20
【小説】マグダラで眠れVII レビュー
その内読みますと昨年10月に書いてから、どんだけかかっとるっちゅーの。
マグダラで眠れVII
クースラ一行が次に目指すのは、天使達による太陽の召喚により一夜にして滅んだというアッバスの町。そこで出会った書籍商・フィルは、クースラと同じく天使の伝説を追っており、さらにクースラが調べている異端審問官・コレド・アブレアの弟子だった。
アッバスの町には、シロクマを使った生け贄の儀式が行われており、フィルによると、その儀式は天使の伝説と関係があるのではないか―とのこと。儀式に用いられたシロクマが埋められた地面の土に何か秘密があるのではないかと考えたクースラ達は、早速その土を採取し、様々な物質と反応させて太陽の召喚を試みる。伝説をひもとき、ついに火の精霊を呼び出す「火の薬」の調合に成功するクースラ。しかし、その手柄を横取りし、火の薬を用いて世界を手中に収めようとする騎士団の密偵たちにより毒を盛られてしまう。命からがら逃げ出したクースラたちは町の有力者により匿われるが、密偵達が引き渡しの刻限として指定した時刻までは一晩しかない。
クースラは、自分のマグダラとは、仲間達との安穏とした生活であることを認め、それを守ろうと最後の実験に望むのだが―果たして太陽の召喚とは。
感想
今回もおもしろかったのですが、ストーリー的なおもしろさというよりは、科学的なおもしろさが前面に出てましたね。
「火の薬」はもちろん黒色火薬で、炭と硫黄と硝石(動物の死体の分解物)を混合することで作れます。これは僕も前提知識として持っていたので、シロクマの死体が出てきた時点で、「あ、今回のオチは火薬の爆発オチだな」と思ったわけです。
しかしさらにそこからさらなるどんでん返しを用意していたとは…さすが支倉先生です。おそらく最後にクースラ達が作ったのは、炭と太陽の欠片から作られた硝酸(※ところで炭素と硝石?から硝酸って作れるんですかね。そのあとの流れから硝酸としか思えないのでこう書いてますけど。教えて偉い人)と、硫黄と硝石から作られる硫酸を混ぜた混酸を、布(おそらくセルロースの割合が高い綿布)にしみこませて完成させたニトロセルロースだと思います(現代でも手品などでぱっと火をおこすときに使われていますね)。同じ材料でも扱い方次第で全く違った反応を引き出せるという科学の醍醐味がうまく現れていたように思います。
シロクマの肝が人体に有害だというのも初めて知りました。調べてみると、ビタミンA中毒になるそうですね。
もっとも、黒色火薬を作ってから数時間でニトロセルロースを作り出したのはいかにもご都合主義な感じはします。またクースラ達が暗殺されなかったのもたんに運が良かっただけなので(シロクマの肝などという毒性も致死量も不明なものを暗殺に使いますかね?しかもそのあとまんまと逃げられてるし)、全体のストーリー立ては若干荒さを感じたのは否めません。
とはいえ、それを差し引いても十分楽しめる1冊でした。しかしクースラの口から、
自分の中での世界というのは、狭い工房一つだけであり、広大な領土が欲しいわけではない。そこで静かに、誰にも邪魔されず、気の合う連中と実験に打ち込めればそれでいい。自分のマグダラの地は、そんなにも素朴なものだったのだ、と今ならよく分かっている。
※294ページより引用
なんて言葉が出るとは(実際には心の声ですけど)。
今巻ではウェランドとの関係を相当改善され、これまでのでこぼこパーティとは全然違う人間関係になっていますね。いよいよ終わりが近づいているのでしょう。時間で一区切り付くようですが、まだ完結ではないとのこと。これからどうなっていくのか楽しみです。8巻も既に購入しているので、その内読みます。
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