2015-05-04
【小説】マージナル・オペレーション FⅡ レビュー
こういう本ってラノベの括りに入れていいんですかね。
マージナル・オペレーション FⅡ
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1200円
あらすじ
停戦後、日本の高校に進学したサキ。これまでとは全く違う世界に順応しながらも、トリさんと呼ぶ父アラタとの生活を思い出す日々。そんな中、三者面談の日に起きたささやかな事件を描く「私のトリさん」
アラタの語学の教師でもあるホリー。彼女の揺れる女心と、不器用に彼女を守ろうとするアラタの人間関係を描く「新しい首輪」
停戦後、アラタから学校に通うよう求められるも、どうしても応じられないイブン。新天地に旅立つ仲間は、彼の狭い世界の殻を破ることが出来るのか―「若きイヌワシの悩み」
徳島にやってきたアラタが突如失踪。子供たちはパニックになりながらも彼の行方を捜し始める。まめたんも登場する「子供使いの失踪」
の4編からなる短編集です。いずれも本編終了後の世界を描いています。
感想
戦争が一段落して、子供達に新たな生活を与えようとするアラタの奮闘を、第三者目線で描いています。
戦争物大好きな芝村先生ですが、むしろ戦争以外の場面を描いている方が面白いんですよね。特に人間考察の部分は、自分と波長が合う気がして面白いです。「教育」の存在意義とか、「合理的な人間」観とか。
「他人を高く評価しすぎなのよ。あんたは。そして自分を低く見過ぎている。」「あなたの経歴まで考えて皆が動いていると思ったら大間違いだから。いい?人間はまずあなたの活躍を見て、あなたの部下の数と武装を見て、それであなたが脅威かを判断する。あなたの経歴から考えたりはしない」
「合理的じゃない……」
「あなたが合理的すぎるの。異常なくらいに。瞬間で一番合理的な考えが見えているでしょ」「そういう風には周りは見えてないのよ。まともな人間はね、瞬間で合理的な判断なんて見えてないし、あなたが見えているのが当然として振る舞えば、反感を持つの。」
※81~82ページより引用
という下りは刺さりました。僕も仕事上、人間は全て「瞬間で一番合理的な考えが見えている」っていう前提で話を組み立てて押しつけるからなぁ。もちろんそれが説得力があるからなんですが、楽だからという側面もあります。もっと悪いことに、自分が考える「合理的な考え」が、他の人の考える「合理的な考え」とずれている可能性すらある。
他にもキャラクターがしゃべる、国家の持つ戦争観観も中々面白い。
- 中国…合理的で、利害が一致すれば昨日までの敵とも手を組める。
- 日本…まとめて殺したり被害を与えたりはしない。ターゲットは慎重に選ぶ。外国に対する影響力は低く、輸出と公共工事とお金くらいしかカードがない。
- アメリカ…強大な軍事力があるため、民主主義最優先。軍事的目的ではなく、政治によって軍事行動が決まる。
とか。
それから、第4話に登場した「まめたん」の制作秘話は、芝村先生の「富士学校まめたん研究分室」をご覧下さい。こっちも面白いよ。
[関連記事]【小説】富士学校まめたん研究分室 レビュー | Y.A.S.
さて、今度こそマジオペは終わりなので、つぎは日露戦争時代を舞台にした同じ作者の「遙か凍土のカナン」でも読みます。
表紙のキャラは手前からサキ、イブン、明言は無いけどハキム、ホリーかな。
イラストのしずま先生が、艦これのキャラデザしてることに今さら気づきました。つーか島風のあのコス考えたのが…
こっちの関連記事もどうぞ
23:20 | レビュー > 小説 > 芝村作品 | マージナル・オペレーション | (4)
>国家の持つ戦争観観も中々面白い
なかなか鋭いです。日本の戦争観を「まとめて殺したり被害を与えたりはしない。ターゲットは慎重に選ぶ」と考えたことはなかったですが、言われてみれば。
「まめたん研究分室」へのリンクが貼られてませんが…。興味沸いたのでお願いします。
2015.05.05 13:46 | by Ivan
> 日本の戦争観を「まとめて殺したり被害を与えたりはしない。ターゲットは慎重に選ぶ」と考えたことはなかったですが、言われてみれば。
そのあとに、「日本は日本らしいやり方で敵対するだろう。たとえば一旦懐柔した後僕を日本におびき寄せて逮捕するとか」と書いてあって笑いました。さもありなん。
> 「まめたん研究分室」へのリンクが貼られてませんが…。
ありがとうございます。修正しました。
2015.05.06 00:42 | by yukkun20
このスレTOFのと順番間違ってません?
2015.05.05 15:09 | by Ivan
TOF「この記事は当面最上部に表示されます」
なるほど。失礼しました。
2015.05.05 19:59 | by Ivan