2014-11-14
【小説】突変 レビュー
病院通いを利用して小説消化中。
突変
あらすじ
「突然変移」と呼ばれる災害が世に知られるようになって7年。急にある地域が、パラレルワールドともいうべき別の地球と入れ替わってしまう現象がたびたび起こるようになり、人々は大事なものを常に身に着け、なるべく愛する者と離ればなれにならないようなライフスタイルを模索している―そんな世界。入れ替わった世界は地球に似ているものの、全く異質な生態系が息づいていた。
ある日、関東某県酒河市一帯が突然変移の犠牲となった。妻の末期がんを宣告された町内会長、地球に侵入した異世界の生態系に対応する訓練を積んだ即応予備環境警備官、スーパーマーケットの店長、陰謀論者の市会議員、ニートのオタク青年、過去の突然変移で夫と生き別れてしまった若い女性―様々な立場の人々は、突如異世界に放り出されたという事実にショックを受けながらも、何とか生き抜こうと動き始める。そんな中、偶然、過去に突然変移していった住民たちのコミュニティとの連絡が確保された。彼らは被災民自治政府なる組織のもとに、被災した人たちが生き抜ける環境を作り上げているとのこと。彼らは人員と物資を送り込み、酒河市民も助け出そうとするのだが、その時街には巨大生物「ミカミ」が迫りつつあった―
感想
星界シリーズでおなじみの森岡先生の最新作です。
まず目を引くのはその厚さです。なんと700ページ以上、通常の文庫本の3倍くらいはあります。徳間文庫の中でもかなり目立つ厚さなので、本屋で探すのも楽勝でしょう。しかもこれだけの作品が書下ろしということにもびっくりです。
話自体は、いわゆる異世界放り出されものに分類されるものです。森岡先生らしく設定が緻密で、
- 異世界にはどういう生態系が根付いているのか
- 突然変移という災害が認知されるようになり、ライフスタイルはどう変わったか
- 災害に対応するため、どのような組織が設立され、どのように統制されているか
- 過去の被災者たちが異世界の生態系に対応するためどのような武装組織を設立しているか
- 異世界でどのような通貨制度や法律が構築されているか
- 町内という狭い(行政組織が存在しない)集団は、異世界でどのように秩序を生み出そうとするのか
など、非常に細かいところまできちんと説明されていて、ものすごいリアリティを生むのに成功しています。しかもその設定が押しつけがましくなく、登場人物のセリフや情景描写の中でさらっと、しかも順序良く描かれていくので、話が分かりづらくなることもありませんでした。さすがはベテランの森岡先生です。
そして最後のミカミ襲撃のシーンは手に汗握る戦闘シーンが描かれていて、こちらも楽しめます。森岡先生は地上戦もきっちり描ける方だったんですね。しかもヒーロー的なポジションのキャラが武器片手に無双、みたいな展開ではもちろんなく、別の組織に属する者同士が法で定められた序列に従い指揮系統を確立し、火器をしかるべき人間に任せ、不慣れな人間を誘導しつつ組織だった戦闘を行う、というところがまたリアルでした。
反面、森岡先生と言えば外連味のきいた会話が醍醐味だと思いますが、本作はあまりそういう会話はなく、割と普通のスタイルで話が進んでいく場面が多かったように思います。そういう意味で、いつもの森岡節を期待すると肩すかしをくうかも。逆にこれまで森岡先生の作品に触れたことがない方にも広くお勧めできます。
僕としては森岡先生の新しいジャンルの話が読めてうれしかったです。話は決してハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、何とも言えない終わり方をするんですが、それもこの話なら当然だよね、と受け止められるもので、改めて森岡先生の非凡さを感じました。これからも森岡先生の作品は随時チェックしていきたいと思います。
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