2020-11-22
今年は少し時期が遅れましたけど、やっぱりこれがないと寂しいですね。20周年おめでとうございます。
キノの旅XXIII the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:630円(税別)
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レビュー
今回の帯名言は「『みんながそう言っている』の”みんな”は、あなたが選んだ人達だ。」です。大体主語が大きい人は論拠が薄いことが多いんですけど、そこを鋭く突く名言ですね。
23巻に収録されているのは、キノがメインの「ロボットがいる国」「眠る国」「愚か者は死んでもいい国」「狙撃犯のいる国」「始まりと終わりの国」、シズがメインの「ペンの国」「戦える国」、師匠がメインの「赤い霧の湖で」、フォトがメインの「ピンクの島」、キノ・師匠・シズがそれぞれ登場する「演技の国」でした。後書きはショートストーリー「わらしべキノの旅」が掲載されています。いつものようにハチャメチャ話じゃなくて、普通の「キノの旅」っぽい話になって…ないな。これも冷静に読んだらハチャメチャだ。学園キノと比べたのがまずかった。
印象深かったのは、「狙撃犯がいる国」でしょうか。今回キノがメインの話は風刺が効いている短編ものが多かったのですが、この話はアクションメインです。最近はちょっと薄めになりましたが、キノの冷酷さというか、必要であれば利害関係がない相手でも冷酷に撃てるという性格が出ていてハラハラしながら読みました(珍しくキノが罠にはまったシーンもあります)。しかし小説でここまでアクションが描ける方は希少なのではないでしょうか。推理ものとしても面白く、今回は犯人はわりとすぐ分かりましたけど、動機は見抜けませんでした。
印象深いと言えば、「赤い霧の湖で」がいまいちよく分からなくてすごく引っかかってますね。「男の独り言」「船がそれぞれ一度ずつ汽笛を鳴らした」「カチュアが笑顔で手を振っている」というあたりから、彼女は死んだし少年はもともと死んでるんだと思うんですけど、「給仕係のボスに男は何を頼んだのか」「ガスマスクを持った男はどこへ行ったのか」「そこから戻ってきた男が連れていた少年は誰か」あたりの謎が解けなくてよく分からないんですよね。誰か謎が解けた人、教えてください。ネットでもツイッターでも情報集めたけどよく分からないの…
あと「始まりと終わりの国」は何かモチーフがあるんでしょうけど何だこれ…と思いながら読みましたけど、本の末尾の「初出情報」を読んでようやく意味が分かりました。…まさか実話じゃないよね?ネタだよね?(電撃文庫MAGAZINEの休刊号に掲載された話)
「時々、『旅人さん聞いてくれ! この国はひどい独裁国家なんだ!』って、入った国で言われるじゃん?」
「あったね。外から来た人に自分の国の愚痴を聞いて欲しいって人は、ボクが思うよりたくさんいるみたいだ」
「でも、そのたんびに思うけど、それを国の中で、あんな大声で言える国は、全然独裁国家じゃないね」
※第四話「愚か者は死んでもいい国」より引用
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2019-07-22
約2年弱ぶりの新刊。やっぱりキノの旅は面白いです。
キノの旅XXI the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:630円(税別)
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レビュー
今回の帯名言は「誰もが幸せになれる方法はない。誰にも幸せになれた方法はある。」です。希望を持たせるような、絶望を招くような、どちらとも取れる言葉になってますね。
22巻に収録されているのは、キノがメインの「川の畔で」「誕生日の国」「退いた国」「議論の国」「餌の国」、シズがメインの「知らない話」「届ける話」、師匠がメインの「取り替える国」、フォトがメインの「来年の予定」、キノ・師匠・シズがそれぞれ登場する「仮面の国」でした。後書きは連載開始20周年ということで、旅に出て20年経ち、32歳になったキノが登場します。
今回印象深かったのは「仮面の国」と「川の畔で」ですね。どっちもなかなかにホラーな、そしてキノらしい展開でした。「仮面の国」とかページをめくった瞬間ビクッとしてしまいました。師匠本当にろくなことしねーな(笑)「川の畔で」なんて、川を鮭が遡上してくるだけの話なのに、あまりに救われない絶望的なオチが待っていて、さすが時雨沢先生…とうなってしまいました。また「届ける話」は、シズの愛犬・陸がシズに拾われた時の話でしたk。今では考えられない陸の駄犬ぶりが拝めます。
また「議論の国」は政治風刺的な話でしたね。議論と全会一致でしかものを決められない国の話でした。民主主義をとことん突き詰めるとこういう形態になるんでしょうが、結局何も決められない=現状維持(というか放置)という選択をしたことになるので、何も決めなくても実は決められているという教訓的な話ですね。多数決は数の暴力だって言われることありますけど、世の中を転がすには必要なんですよね…
「久しぶりの国ですので、売る物を売ってしまいましょう」
「それには大賛成です。お金持ちだらけの国だといいですねえ」
「逆、ですね」
「とは?」
「金持ちだけの国では駄目です。貧富の差がはっきり分かれている方が、裕福層の金遣いが荒くなります」
※第三話「取り替える国」より引用
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2017-11-05
今年もこの季節が来ましたね。榊ガンパレが終わったらキノの旅をまとめようとだいぶ前から思っているのですが、榊ガンパレ関係の更新はあと何年も終わりそうにないなぁ。
キノの旅XXI the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:590円(税別)
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レビュー
今回の帯はアニメ化の告知なので名言は書かれていませんが、口絵に「極限状態で起こったことを―そこにいなかった人間は理解できない。そこにいた人間もまた、理解できない。」という言葉が書かれています。
21巻に収録されているのは、キノがメインの「巨人の国」「有名になれる国」「Nの国」「読書が許されない国」「満員電車が走っている国」「消えた国」「完璧な国」「鍵の国」「毎日死ぬ国」、シズがメインの「美男美女の国」、レジーという女性がメインの「女の国」、フォトがメインの「見える真実」でした。今回は後書き2つと作者略歴の枠を使って、時雨沢先生がアニメ化について熱く語っておられましたね。自分が書いている小説がアニメ化とかどういう気持ちなんでしょうか。表現者ではない自分には全然分かりませんけど、きっとめっちゃ嬉しいんだろうなぁ。
今回面白かったのは「女の国」ですね。はっきりとは述べられていませんが、この話が「鍵の国」のすぐあとに配置されていること、また登場する車から考えるに、レジーとはキノの師匠のことなんでしょう(まあこの作品の場合それも引っかけの可能性がありますけど。実は師匠の師匠とか)。この作品に出てくる主人公たちは、キノもシズもフォトも重い過去を抱えていますが、師匠もやっぱり…という感じでしたね。
また「有名になれる国」も風刺が効いていて興味深かったです。誰もがラジオで自分の情報を発信でき、それを聴取している人の数で人気が計られるという国の話。これYouTuber的なものを描いているんでしょうね。時雨沢先生らしく自業自得的なオチになっていますが、かといってあまりかわいそうなオチにはなっていないので、その辺りから時雨沢先生の見方が読み取れそうです。
「一番迷惑でタチが悪いのは、有名人に絡む奴らだ。…遠慮もなく突撃して話しかけ、その様子をラジオで勝手に流す。普通に質問していては普通の反応が引き出せないと分かると、法律ギリギリ、時に超えてまで失礼なことをして、その怒りの反応などを伝えて有名になりたがる。これ以上のゲスな人間を、私は知らん」
※第一話「有名になれる国」より引用
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2016-10-18
今年もこの季節が来ましたね。それにしても3日連続でレビュー記事を上げるとか、自分に驚いてます。
キノの旅XX the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:610円(税別)
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レビュー
帯には「みんなが異常者だと思っている人はみんなを異常者だと思っている」という言葉が書かれています。「自分の周りには変な人しかいない」と思っている人は自分を見直せってことですかね。
20巻に収録されているのは、キノがメインの「旅の話」「拘らない国」「海のない国」「ターニングポイント」「羊たちの草原」、シズがメインの「人間の国」、師匠がメインの「宝探しの話」、フォトがメインの「夫婦の話」、キノ、師匠、シズが登場する「仲の悪い国」でした。あと巻末にわかる人だけわかる「キノの旅・宇宙編」(わからない人は4巻を読むといいと思います)が掲載されてます。しかしこの形式で20巻とかすごいですね。今回は「~の国」というタイトルが少ないですが、ストーリーはいつも通りです。
今回面白かったのは「宝探しの話」ですね。師匠の話でこのタイトルというだけで概ね話の内容が予想できると思いますが、まさにその通りです。若干クローズドサークルものにも近いので、犯人を予想しながら読み進める楽しみもありました。でもそれ以外の話はあまり尖ったものはなく、割と普通な感じだったのはちょっと残念かな。プロローグの「旅の話」(※「キノの旅」のエピローグとプロローグは、同じ話の前半と後半が掲載されています(つまり話の後半部分がプロローグで、前半部分がエピローグに位置されている。後半部分は一読しても意味が分からない話になっており、最後に前半部分を読むことで意味が分かるようになる)も今回は比較的前半部分が予想しやすい内容でしたしね。
それから今回の後書きはあちこちのページに散らばっているので集めてみました。「20」「巻の」「本当」「のあ」「とが」「きは」「実は」「これ」「です!」「皆さ」「ん見」「つけ」「てく」「ださ」「って」「あり」「がと」「うご」「ざい」「ます!」ですね。
「恋愛犯罪とは、惚れた相手、または別れたがっている相手が嫌がっているのに、しつこく追いかけたり復縁を迫ったりする、サイコパスな行為のことだ。…そこで、昔の偉い人は考えた訳だ。”一人としか恋愛できないからこそ、『この人を逃したらオレは私はもうダメだ!』って思い詰めてしまう、って…だから法律を変えて、一対一の恋愛を禁止した。…だからこの国では、恋愛とは必ず複数の相手と同時進行で行うものであって、それが当たり前なんだ」
※第三話「拘らない国」より引用
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2015-10-26
現在プレイ中の「うたわれるもの 偽りの仮面」ですが、非常に面白いです。正直バトルパートはそんなでもないですが(戦略性はあまり高くない)、ADVパートが楽しすぎる。登場人物はみんな魅力的だし、ストーリーは先が気になるし。特に主人公は、「働きたくないでござる」とか素で言っちゃうキャラなんですけど、何故か人から好かれる人物という設定があるのですが、その設定がうまく説得力ある仕方で描かれているのはさすがです。仲間達の軽口も楽しく、良質な小説を読んでいるような気分になります。声優さんの演技も良いし、これはおまけにSRPGがついたADVと考えれば全然OK。
それはそうと、今年もこの季節が来ましたね。
キノの旅XIX the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:530円(税別)
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レビュー
帯には「どんなに願っても 会えない 私は私に会えない」という言葉が書かれています。いつもこの部分は考えさせるフレーズが書かれていますよね。
19巻に収録されているのは、キノがメインの「幸せの話」「美しい記憶の国」「天才の国」「秀才の国」「戦えない国」「贋物の国」「撃ちまくれる国」、シズがメインの「首輪の国」「守る国」、師匠がメインの「捨てる国」、フォトがメインの「助けに来た国」でした。確か初めてだと思いますが、登場人物紹介もあります。といっても主要な人物の名前とSDイラストが描かれているだけですが。師匠こんなに目つき悪かったっけ?
今回断然面白かったのは「戦えない国」でした。いがみ合う6つの国家がひしめくとある国。しかし国家同士の戦争が起こらないのには理由があった。それは戦争を起こせば容赦なく殲滅するという脅しと共に上空から睥睨する1隻の飛行船が原因だったのだが―。先が読めたと思ったら、ひっくり返されるの繰り返しで、二転三転する話の筋に気持ちよく翻弄されました。オチも秀逸。二代前の王様、絶対悲惨な目に遭ったんでしょうね…
あとは後書きに掲載されている「十五歳の話」ですかね。キノの旅15周年ということで十五歳になった○○ーが描かれています。時雨沢先生、本当は学園キノが書きたかったんですね。黒星先生も全力で乗っかっているので十五歳○○ーを全力でお楽しみください。
来年はいよいよ20巻ですね。これまた感慨深いなぁ。キノの旅は短編集なので、さらっと読めるところが好きですよ。
人間の幸せは、必ずしも一つじゃない。よほど何かを極めようとしている人以外は、いくつもの幸せを同時並行的に追いかけている。それらの一つを得るたびに、その都度その都度、大なり小なり、幸せを感じられる。だから簡単に絶望しないで生きていけると言えるし、そうでないと人間として生きていけないとも言える」
※口絵イラストのベル「幸せの話」より引用
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2014-11-18
黒星紅白先生(飯塚武史先生)の画集が来春発売予定って帯に書いてあったよ!前作も買ってるから超楽しみだよ!でも前作から12年たってると知って軽くショックだよ!
それはさておき毎年恒例のキノの旅最新刊です。病院の待ち時間であっさり読了。
キノの旅XVIII the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:550円(税別)
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レビュー
全巻は新聞連載の総集編のような感じでしたが、今回から再び書き下ろしに戻っています(2編だけは出典あり)。
18巻に収録されているのは、キノがメインの「牛の国」「草原の話」「スポーツの国」「税金の国」「主食の国」「チョコレートの話」「お金の国」「私の戦争」「キノの旅の国」、シズがメインの「遺産の国」、師匠がメインの「止まった国」、キノ、フォト、シズが登場する「復讐の国」でした。しかし口絵に描かれているフルート(狙撃銃の名前)ゴツイな…キノが持っているとギャグにしか見えません。これを立射で200メートル先の的に当てるとかすごすぎ。
面白かったのは「お金の国」ですかね。お金を稼いで豊かになることではなく、お金を稼ぐこと自体が目的になってしまった国の人々を描いた、風刺のよく聞いた一編でした。どんだけ悲惨なオチが待っているのかとちょっと期待しながら読んだんですが、まさかの展開でちょっとびっくり。それから観光資源とその観光資源に縛られてしまった人たちの悲哀を描いた「遺産の国」かな。これ日本でも同じようなことを考えて悩んでいる人はいるんでしょうね。旅行・観光好きな身としてはちょっとばかし反省。
「キノの旅の国」はいきなりはっちゃけ展開だったので「だれだこれは!?」になりましたけど、オチが秀逸。実際の映画もこうやって原作からかけ離れていくんだなぁ…そういえばキノの旅は一度アニメ化されていますが、時雨沢先生はどう思っているのかちょっと気になる。
恒例のあとがきは「頭のいい人には見えないあとがき」でした。僕はもちろん頭がいいので見えなかった―と言いたいところですが、いつもの習慣ですぐに気付いてしまったのでちょっと複雑。でもシリーズはまだ続くそうですので、来年の19巻を楽しみに待ちたいと思います。
「この国では、どうしてこんなにもチョコレートが食べられているんですか?」
「そりゃあ、もちろん主食だからだよ!たくさん採れて、栄養がたっぷりあって、体にもいい。食べない理由がないよね?」
※第四話「主食の国」99ページより引用
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2013-12-06
久々の時雨沢成分補充!ということで毎年恒例のキノの旅最新刊です。今回はちょっと厚め。理由は後ほど。
キノの旅XVII the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:630円(税別)
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レビュー
今回は2013年4月から、各地の地方紙で連載されていた話が主として収録されています。良い子も読んでいる新聞連載だけあってさすがに流血騒ぎとかは控えめにされていましたが、その分ほかの話ではっちゃけている感じでした。
17巻に収録されているのは、キノがメインの「旅人達の話」「自然破壊の国」「時計の国」「左利きの国」「割れた国」「貧乏旅行の国」「恋愛禁止の国」「料理の国」「広告の国」「鉄道の国」「旅の終わり」「神のいない国」「私達の国」、シズがメインの「渡す国」、師匠がメインの「遊んでいる国」「楽園の話」、誰がメインでもない「ファッションの国」の17編でした。短編が多めとはいえいつもの倍ありますね。本も既刊より分厚いです。
一番面白かったのはやっぱり「鉄道の国」かな。ほぼオチは予想どおりだったんですけど、人が人のために働ける動機付けは何かということを考えさせられましたね。あとは新聞連載で大人しくしていたキノの反動が思いっきりあふれてしまった「神のいない国」かな。キノの暴れっぷりを隠蓑にさりげなくホラーを突っ込まれると恐怖が2倍ということに気づいた。
そして最後の「渡す国」。これまでシズがどれほど苦労をしてきたかを知っているだけに、彼の最後の決断には心を打たれました。今回は脇役だったフォトもいい味出しているんだこれが。
あとは恒例のあとがきで、「学園キノ」についてもまだまだ執筆するつもりであるということが聞けて嬉しかったです。
あなたが誰かの手を握って
暖かく感じているとき
その誰かは冷たく感じている
※口絵イラストより引用
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2013-07-22
「アリソン」「リリアとトレイズ」「メグとセロン」シリーズの完結編が登場ですよ-。
※過去シリーズの感想はこちらから→メグとセロン | Y.A.S.
一つの大陸の物語<上><下> ~アリソンとヴィルとリリアとトレイズとメグとセロンとその他~
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:570円(上巻)、630円(下巻)
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あらすじ
アリソンに見送られたトラヴァス少佐は、軍用機で一路スー・ベー・イルを目指す。
一方リリアの通う第四上級学校では、新聞部が次の新聞のネタとして、転校生トレイズの正体を探ろうとしていた。しかし、その調査中、校内のロッカーを使った大胆不敵な組織犯罪の影が。新聞部は犯罪に巻き込まれた学校の生徒を救おうとする。
その頃アリソンは自宅で、トラヴァスの乗った飛行機がルトニ河に墜落したという報せを受けとっていた―(上巻)
墜落死をなんとか逃れたものの、満身創痍のトラヴァスを救ったのは、懐かしいあの男だった。ケガから回復したトラヴァスは、自分の命を狙った者の正体を探ろうと墜落現場へ戻る。知らせを聞いたアリソンも駆けつけ、敵の妨害を退けて目的のものを手に入れたトラヴァスだったが、アリソンはその際に軍用機を無断で拝借したため、空軍を不名誉除隊になってしまった。知らせを聞いて驚くリリアに、アリソンは再婚宣言をしてさらに困惑させるのだが―(下巻)
感想
いよいよ11年にわたったこのシリーズも完結です。「アリソン」から読んでいる者としては感慨深いですね。
上巻は「メグとセロン」の流れを踏襲していて、学園内の事件をおなじみ新聞部の活躍で解決していくという小気味よい展開になっています。謎の転校生トレイズ君も、相変わらずの完璧超人ぷりを見せてくれました。でも狙撃姿勢で8時間待つのは無理があるんじゃ…
下巻の方は「アリソン」的な展開がメインですね。こちらも完璧超人トラヴァスの活躍が見られます。今回は全体的に男連中が強いなぁ。そして登場したサイラス氏。誰の事かはすぐに分かったんですけど、こんな名前だったっけ…と悩んでしまいました。「アリソン」シリーズでは名前出てなかったんでしたっけ。モブキャラというわけではなかったので、名前を出していなかったということは、当時からこの展開を予定していたのかなぁ。すごいぞ時雨沢先生!
相変わらずあとがきはふざけた内容でしたが(↓)、続編も構想があるとのこと。続編でもいいですし、新シリーズでもいいですけど、次なる作品を大いに期待して待ちたいと思います。時雨沢先生、素晴らしい挿絵を描いてくださった黒星先生、本当にありがとうございました。
「下巻? 上巻はまだ読んでないぜ?」
と驚かれた場合―、
すぐ隣に上巻があるはずですのでそちらを先に見てくださいお願いします。
上と下で完結していますので、「中巻」なんてのがあったら、バカもん、そいつがルパンだ。
※374ページ「あとがき」より引用
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2013-05-24
メグとセロンの7巻感想です。いよいよ完結!そして…
※既刊感想はこちらから→メグとセロン | Y.A.S.
メグとセロンVII 婚約者は突然に
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:619円
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あらすじ
メグの元に届いた一通の手紙。それは短期留学生だった新人君からのもので、「セロンの気持ちに気づいてあげてほしい」と書かれていた。メグはリリアに励まされ、セロンの真意を確かめようとするが、その際に「自分で告白できない人を好きになることはできない」と言ってしまったため、セロンは激しく落ち込む。
一方、新聞部には新たな依頼が来ていた。婚約者が浮気をしているかどうか調べてほしいというケネスの依頼を引き受けた新聞部の所に、当の婚約者が現れる。その女性、ブリジットは、婚約者からモラルハラスメントを受けているので、その証拠を掴んでほしいと依頼してきた。新聞部は双方の言い分が食い違っていることに疑問を抱き、双方の依頼を受けていることを隠したまま調査を続ける。
そんな中、メグはブリジットがセロンにキスしているところを目撃。自分の気持ちが分からないまま、セロンに冷たく当たってしまうメグ。そんな中、セロンは依頼者達の真意を確かめるため一つの場面を設定するが、事態は思わぬ方向に…
ケネスとブリジットの真意は。そしてメグとセロンの恋の行方は―
感想
最終巻でしたが、いつもどおり学園内で事件が解決したのは良かったですね。メグセロはこういうこぢんまりとした話がよく似合います、メグとセロンがどうなるかは、1巻の最初に書かれているので心配はしていなかったんですが、素晴らしい大団円でした。やっぱり恋に悩む女の子はいいですね。メグがセロンにヤキモチ焼いて冷たく当たったり、入院したセロンにストレートな感情をぶつけたり、最後にメグのかわいさ急上昇過ぎだろ。
あと最後のメグセロが全部持って行っちゃいましたけど、仲間たちのテンポの良い会話はこれまで以上に磨きが掛かっています。森岡先生の文章を読んでいるようでした。
(ナタリア)「なんでラリーがあんなに頭が悪いのか、調べてみて欲しいんだが」
「ラリーは、かなり頭が切れると、僕は思ってますよ?」
ニックが言うと、ナタリアは大仰に驚いて、
「おいおい! 二人だけでここにいた間に、どんだけの金銭の授受があったというんだい?」
ラリーが、いつもナタリアが使うカップをテーブルに用意しながら言う。
「人間がお金でしか動かないと思えてしまったら、お終いだな」
「人が動くのは”愛”か”お金”だろう? おっと、ラリーには二つともなかったっけか。すまんね」
「それはお互い様だな。俺は、ナータが愛を持っていたのを見たことがない」
「しょうがない、今度持ってくるか! 部室中に方向を振りまくあたしからの愛に備えろよ。踏むなよ」
「いいけど、店のタグはちゃんと切っておけよ」
※54~55ページより引用
メグセロはこれでおわりですが、「アリソン」「リリトレ」「メグセロ」シリーズはまだ続きますよ。時雨沢先生の次回作「アリソンとヴィルとリリアとトレイズとメグとセロン」(仮)に御期待下さい!黒星先生の戦いはこれからだ!
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2013-05-10
メグとセロンの6巻感想です。前巻読んでから既に半年経っていることに戦慄。
※既刊感想はこちらから→メグとセロン | Y.A.S.
メグとセロンVI 第四上級学校な日々
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:594円
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あらすじ
今回は短編2本と中編2本の4部構成になっています。
「リイナとクルト」…メグの弟クルトと、セロンの妹リイナの電話越しでの会話を描いた短編。クルトから見た主要メンバーの人物評が語られる。
「顧問」…正式な部活動として認められた新聞部に、顧問の先生が着くことになった。その人物はかつてセロンたちを殺そうとしたマードックだった。マードックの突き放すような物言いに怒る一同だが、セロンとジェニーは平然としていた。その訳は。
「どこへ行こうと、あなたはそこにいる」…第四上級学校主催の部活動対抗オリエンテーリングが開催されることになった。新聞部もこれに優勝してその存在を校内に知らしめようと考え、ラリー、セロン、メグの3人チームで参加。ラリーの身体能力とセロンの知力で順調に進む新聞部チームだったが、同じように優勝を狙う手強いスキー部チームが立ちはだかる。最後は泥臭い勝負になったのだが、それを救ったのはメグの…。なお残りの3人は、ジェニーの初恋話で盛り上がっていました。
「我々は新聞部だ」…「あなた」はラプトア共和国の生徒。1ヶ月の間首都にある第四上級学校へ留学生として派遣されることになった。カルチャーショックに戸惑いながらも、新聞部に入部したことからセロンたちとの交友を深めていく。首都の、それもお金持ちの友人たちとの生活は刺激に満ちて退屈しないものだった。そしてラプトア共和国に帰る日、ジェニーは「あなた」に、セロンとメグの関係を進展させるためひとつの頼み事をするのだが―
※今回のあとがきは「セグとメロン」というショートノベル風でした。シュール。
感想
今回は短い話が多いこともあり、あまり大きな事件も起こらず、キャラクターたちの人間関係に焦点が当てられていましたね。たしかに既刊ほどの盛り上がりはありませんでしたが、正直毎回毎回大冒険が巻き起こるとリアリティに疑問を感じるので(まぁ完全フィクションでリアリティとか行っても仕方ないんですが)、たまにはこういうノリもいいです。
個人的には最後の「我々は新聞部だ」が面白かったです。ボクもお金持ちになりたい。そしてお金持ちの友人が欲しい。というかどいつもこいつもお金持ちのくせにいい人達ばっかりで、読んでいて気持ちが良すぎるんだよチクショー!
いよいよ次巻がメグセロの最終刊です。既に購入しているので近いうちに読めたらいいと思ってます。
本当は、あなたはこの写真がとても欲しい。(中略)でも、それを言うわけにもいかない。フィルムだって印画紙だって高いのだ。(中略)あなたがそう思いながらメモを書き終えたとき、ジェニーさんがこともなげに言う。
「(中略)その写真は全部あげる。(中略)新聞だけ持って帰っても、土産話には足りないでしょ?」
ジェニーさんが素っ気なく言ったが、(中略)
「でも……」
なおも言い淀んだあなたに、ソファーの向かいに座っていたセロンさんが言う。
「あった方がいい。写真があれば、忘れることがない。もし俺だったら、この写真は欲しい。だから、持っていくべきだと思う。ジェニーが持ってけと言ってなければ、俺がジェニーに頼んでいた」
そして、この日は来ていたニックさんが、あなたの隣から、
「そうですよ。せっかく僕たちがここまでいろいろ一緒に楽しんだんです。忘れられてしまうのは僕たちも辛いですね」
※286~287ページより引用
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