2017-01-10
ベルセリアのLaLaBit限定版に付属していた特典小説のレビューです。ネタバレ成分が若干あるので、少なくとも中盤辺りまでゲームをプレイしてから読んだ方がいいです。小説もこのレビューも。
限定版はまだ購入可能ですよ!
PS4 テイルズ オブ ベルセリア ララビットマーケット特装版 | ララビットマーケット(バンダイナムコエンターテインメント公式通販サイト)
魔女語り ~魔が満ちる世界~
著者:不明(株式会社バンダイナムコスタジオ名義)
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あらすじ
第一話「百年の平和」
十数年前。幼いベルベットと生まれたばかりのライフィセットを連れてセリカはリンゴ林を歩いていた。ベルベットはセリカがライフィセットにかかり切りになっていることが面白くない。へそを曲げたベルベットは、それをかばおうとしたセリカたちを巻き込んで崖に転落してしまう。なおいらだちをライフィセットにぶつける妹に、セリカは自分の幼い頃の姿を重ねて優しく諭す。そんな3人を救ったのは、不幸を呼ぶ呪いにかかった一人の聖隷だった。
第二話「地獄の門が開いた日」
10年前。エレノアとその母が暮らしていた村は、業魔に変じた野盗に襲撃を受けた。重傷を負いながらも母の手で何とか村を脱出したエレノア。母は業魔の狙いが村の宝玉であることを悟り、それを持って一人飛び出していった。エレノアに一つの約束を残して。
その数年後。ベルベットは義兄アーサーから狩りの手ほどきを受けていた。狩りを終え、アーサーはセリカが残した櫛をベルベットにプレゼントする。その直後、ベルベットは業魔に襲われる。自分一人で何とかしようとしたものの、結局アーサーに助けられることになる。それはエゴで、もっとも理から遠いものだ、というアーサーの声は、いつも暖かい彼の言葉とは違う響きを含んでいた。
第三話「降臨せし者」
3年前。ロクロウは出奔しようとしていた兄・シグレに上意討ちの戦いを挑む。とはいえ上意討ちというのはただの口実で、真の目的はこれまで負け続けてきた屈辱を晴らすことにあった。戦いはわずかにシグレ優位に進んでいたが、ロクロウには秘策があった。シグレの必殺技・三段突きの返し技「四段突き」である。しかしロクロウが3年かけて習得したその技を、シグレは瞬間的に繰り出した六段突きであっさり破ってしまう。恐怖・悔悟・嫌悪・そして怒り―その強い衝動が、ロクロウを業魔に変えた。
一方その頃。アイフリード海賊団を率いるバン・アイフリードは敵から逃げていた。アイフリードがいつも言葉を交わす「見えない男」。彼がその声と会話をしたあとに下す判断は、いつも正確だった。その時、奇妙な波動が船を包み、「見えない男」が突然姿を現す。砲撃を受け怪我をしたアイフリードは、船の指揮をその男―聖隷アイゼンに託す。乗組員達は、嬉々としてその指示に従うのだった。
第四話「救世主達」
数ヵ月前。テレサ・オスカー・エレノアの3人は、聖寮上層部の指示で「奇妙な物」の捜索に当たっていた。しかしそこに現れたのは巨大なドラゴン。恐怖を感じながらも三人の捨身の攻撃、そしてどこからか飛んで来た光弾により、ドラゴンはひるみ立ち去った。その光弾は、「奇妙な物」を一足先に入手していた、一人の風の精霊によるものだった。
感想
物語の前日譚を描いた小説ですね。マギルゥが牢獄で暇つぶしにしたお話、という語り口になっていますが、そもそもマギルゥが知っているはずもない話が含まれているので、これは単なる狂言回しの役をやっていると見る余地もありますし、彼女の特殊な生い立ちと役割を暗示しているのかもしれません。
お話も興味深かったです。特にロクロウの話が面白かったかな。業魔になる前からあんなにシグレに執着していたとは知りませんでした。しかし3年かけて貼った罠を一瞬で返されたロクロウの心境はいかばかりか。そしてそこまで実力の差があるのに、勝つことを諦めないロクロウの執着はそりゃ業魔にもなるわという感じでした。
またゲーム本編ではかなりあっさり触れられていたエレノアの生い立ちについてもしっかり語られていたのも良かったです。というかそういう事件が頻発していたというこの時代の厳しさを十分感じさせるものになってました。
あくまでゲームの中でさらっと語られているエピソードを深く掘り下げた内容になっており、これを読まないとゲームの中の描写がわからない、ということはないのですが、読んでおくとより深く世界観に浸れると思います。これからプレイする方はぜひ購入をご検討ください。そんな人はそもそもこのレビュー読んでない気もしますけど…
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2017-01-04
今日で正月休み終わりだー!でも2日頑張れば3連休が…ところで年末に、今年の年末年始の予定として、
- 年間ゲームレビューやります
- ダンガンロンパV3の体験版やります
- たまっているアニメを消化します
- 小説を少し読みます
- P5は1周目をクリア、うたわれは2周目クリア、TOBはプラチナ獲得
と書いたんですけど、
- ゲームレビュー→やりました
- V3体験版→やりました
- アニメ→50本の内40本は消化
- 小説→「突変世界」は読んだ
- ゲーム→P51周目クリア、うたわれ2周目クリアは達成。
と結構達成できていて自分でも驚き。
突変世界
著者:森岡浩之
レーベル:徳間文庫
価格:972円(税込)
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あらすじ
水都セキュリティ会社に勤める警備員・岡崎大希は、グループ会長直々の命令を受け、先代会長の友人の娘で、新興宗教アマツワタリの指導者である高校生・天川煌の護衛を引き受けることになる。彼女は教団内の派閥紛争に巻き込まれて負傷し、現在でも狙われている身だった。
大希は持ち前の判断力と運転技能を駆使し、彼女を安全なホテルまで送り届ける。ところがその矢先に、大阪府のほぼ全域が、「突然変移」―急にある地域が、パラレルワールドともいうべき別の地球と入れ替わってしまう現象―に巻き込まれてしまう。
異世界は見慣れない生物が跋扈する危険な世界。水都グループは政治家を抱き込み、自治政府を造って秩序の回復に当たろうとする。一方、自警団(という名のヤクザ)の代表・田頭誠司も、突変に巻き込まれるが、これをチャンスと考え、軍事力で覇権を握ろうと画策する。水都グループと協力関係にあるアマツワタリ教団は自治政府側に付くと思いきや、教団と自警団との意外な繋がりが明らかになり、教団は分裂、事態は混迷を極めていく―
感想
星界シリーズでおなじみの森岡先生の最新作です。前作「突変」の続編ですが、時系列的には前の物になっています。双方の関連性は緩いため、どちらから読んでも楽しめると思います。前作を先に読めば、今作でどちらが勝利するかはわかりますが、だからといっておもしろさが削がれるわけではありませんし、今作を先に読めば、登場人物のその後が前作で分かり、にやりとすることもあるでしょう。
今作は前作の700超ページに比べ、600ページ強と少し薄めですが、相変わらずの読み応えでした。前作で突変したのはごく狭い「町」という単位で、行政組織が存在しない集団が、どのように組織化されていくのかというところが面白かったのですが、今回は正統な行政組織、警察機構、自衛隊すら存在する「大阪府」という単位が突変したわけで、現実世界でも水面下で繰り広げられているであろう権力争いが途端に表面化し、それにどう収拾を付けていくのかが見どころでしたね。
登場人物も整理されていて、あまり視点があちこち行って話が混乱することもなく、それでいてこの大きな物語を分かりやすく説いてくれているのは、さすが森岡先生という感じでした。個人的には、グループ会長の秘書・神内究がいいキャラしてましたね。森岡先生らしい参謀ポジのキャラでした。そういえばちょっと変わった苦労人だと言うことが伝わると思いますが。
また、前回では「突変」という現象にの原因などについてはスルーされてましたが、今作ではある程度の科学的な説明が加えられているところも興味深かったです。まさかその理論をここで持ってくるとは。SF書きの森岡先生らしいというかなんというか。
昨年のトークショーで、森岡先生は「突変は3部作」とおっしゃっていましたので、次回作を楽しみに待とうと思います。
[関連記事]【イベント】池澤春菜&堺三保のSFなんでも箱#27(森岡浩之先生ゲスト回) レビュー | Y.A.S.
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2016-10-19
まさかの4日連続。本当は日記の中心はレビューであるべきなんですけどね…
君の名は。Another Side:Earthbound
著者:加納新太
レーベル:スニーカー文庫
価格:620円(税別)
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レビュー
先日紹介した映画「君の名は。」のスピンオフ小説です。作者の加納先生は映画のシナリオ協力として制作にも関与されている方なので、映画との親和性は高いですね。全四話のオムニバス構成になっています。
第一話は、序盤で三葉と入れ替わった瀧の視点で描かれる「ブラジャーに関する一考察」こんなタイトルなのでコメディだと思われるでしょうけど、その通りです。思春期の高校生が女の子の体に入ったらどれだけ困るのかということを面白く描いています。劇中で瀧が三葉の体でバスケをするシーンがあるのですが、その時に男子の注目を集めていた理由も分かりますよ。
第二話は勅使河原の視点で描かれる「スクラップ・アンド・ビルド」。作中で勅使河原たちがテーブルをDIYで作るシーンがありますが、なぜそういう発想に至ったのか、そしてラストシーンで勅使河原があそこまで三葉に協力しようと思ったのかが描かれています。てっしー(このあだ名は別の人を想起させるなぁ)は作中では気のいい男子みたいな描かれ方ですが、非常に深く物事を考えていると言うことがよく分かりました。
第三話は四葉の視点で描かれる「アースバウンド」。序盤は入れ替わりによって生じる姉・三葉のおかしな言動を描いていますが、後半は二人に流れる宮水の血についてのシリアスな話になっています。つーか四葉はお姉ちゃん好きすぎでしょ。
第四話は、三葉の父俊樹の過去話と、映画終盤のエピソードを俊樹視点で描いた「あなたが結んだもの」。三葉の母親はどういう人物なのか、なぜ彼女の死後に俊樹は家を捨てたのか、そして映画のレビューで述べた、「なぜ俊樹は三葉の計画に協力する気になったのか」が描かれています。非常に観念的な話が挟まれたりしてやや難しい話でしたが、一応謎は解けたって言っていいかな。映画本編で描くべきだったとも思えますが、入れたら入れたで蛇足だった感じもするなぁ。結局三葉の母が言うとおり、「あるべきところに自然に導かれ」たということでいいのかな。三葉と瀧の入れ替わりという奇跡も含めて。
すべての話が映画の裏話になっているので、映画を視聴後、記憶が薄れないうちに読んで欲しいです。特に第四話は映画のクライマックスを補完するものとして価値が高いと思います。映画も2倍楽しくなりますので、映画が楽しめたのであれば必読だと思いますよ。文章も読みやすかったですけど、挿絵がなぁ。特に第一話の挿絵はひどい。あの角度の鏡にあんな鏡像は絶対映りませんよ。
性別が違えば、やはり気持ちの壁というものはある。
向こうにもあるし、こちらにもある。
感覚が違いすぎる。
だから、正味のところで、本音の話はしたことはない。こちらもそうだし、向こうもそうだろう。
だが、このとき――土地の言葉でカタワレ時と呼ばれる《彼は誰刻》の光線と闇のあわいで、《言ってもどうせ通じない》《聞いてもどうせわからんだろう》という、勅使河原の中の断絶のようなものが埋まって消えた。
※第二話(110ページ)より引用
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2016-10-18
今年もこの季節が来ましたね。それにしても3日連続でレビュー記事を上げるとか、自分に驚いてます。
キノの旅XX the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:610円(税別)
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レビュー
帯には「みんなが異常者だと思っている人はみんなを異常者だと思っている」という言葉が書かれています。「自分の周りには変な人しかいない」と思っている人は自分を見直せってことですかね。
20巻に収録されているのは、キノがメインの「旅の話」「拘らない国」「海のない国」「ターニングポイント」「羊たちの草原」、シズがメインの「人間の国」、師匠がメインの「宝探しの話」、フォトがメインの「夫婦の話」、キノ、師匠、シズが登場する「仲の悪い国」でした。あと巻末にわかる人だけわかる「キノの旅・宇宙編」(わからない人は4巻を読むといいと思います)が掲載されてます。しかしこの形式で20巻とかすごいですね。今回は「~の国」というタイトルが少ないですが、ストーリーはいつも通りです。
今回面白かったのは「宝探しの話」ですね。師匠の話でこのタイトルというだけで概ね話の内容が予想できると思いますが、まさにその通りです。若干クローズドサークルものにも近いので、犯人を予想しながら読み進める楽しみもありました。でもそれ以外の話はあまり尖ったものはなく、割と普通な感じだったのはちょっと残念かな。プロローグの「旅の話」(※「キノの旅」のエピローグとプロローグは、同じ話の前半と後半が掲載されています(つまり話の後半部分がプロローグで、前半部分がエピローグに位置されている。後半部分は一読しても意味が分からない話になっており、最後に前半部分を読むことで意味が分かるようになる)も今回は比較的前半部分が予想しやすい内容でしたしね。
それから今回の後書きはあちこちのページに散らばっているので集めてみました。「20」「巻の」「本当」「のあ」「とが」「きは」「実は」「これ」「です!」「皆さ」「ん見」「つけ」「てく」「ださ」「って」「あり」「がと」「うご」「ざい」「ます!」ですね。
「恋愛犯罪とは、惚れた相手、または別れたがっている相手が嫌がっているのに、しつこく追いかけたり復縁を迫ったりする、サイコパスな行為のことだ。…そこで、昔の偉い人は考えた訳だ。”一人としか恋愛できないからこそ、『この人を逃したらオレは私はもうダメだ!』って思い詰めてしまう、って…だから法律を変えて、一対一の恋愛を禁止した。…だからこの国では、恋愛とは必ず複数の相手と同時進行で行うものであって、それが当たり前なんだ」
※第三話「拘らない国」より引用
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2016-05-08
GWで登場人物図鑑の更新が終わりましたし、ぼちぼちレビューしようと思います。次でいよいよ最終刊です。つーかこのオールスターぶり、これをSN6にすれば良かったんじゃ…
前巻までの感想はこちら。
→【小説】サモンナイトU:X 界境の異邦人 レビュー | Y.A.S.
→【小説】サモンナイトU:X ―黄昏時の来訪者― レビュー | Y.A.S.
→【小説】サモンナイトU:X ―叛檄の救世主― | Y.A.S.
→【小説】サモンナイトU:X ―理想郷の殉難者たち― レビュー | Y.A.S.
サモンナイトU:X ―狂界戦争―
著者:都月景
レーベル:JUMP j BOOKS
価格:780円
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あらすじ
レイをどうにか退けたミコトは、その場にいたライと共に転移術で撤退する。ところが、転移した先は見覚えのないところだった。そこに現れたメイメイは、集められた当代の勇者たち―誓約者・ハヤト、超律者・マグナ、抜剣者・レックス、響融者・ライ―に対し、現在リィンバウムに迫る危機について話し始めた―
その頃、忘れられた島を襲撃した軍勢は、シルターンからの侵攻であることが判明。セイロンの策略により時間を稼ぐことは出来たものの、もはや世界全体に避けられない悲劇が迫っていることは明らかだった。
そんな状況下で、ついにレイは帝国軍を率いて聖王国と旧王国への同時侵攻を開始する。既に抵抗する力を失った旧王国に対し、聖王国は軍・派閥・冒険者の力を結集して抵抗を試みる。しかしレイの軍勢は圧倒的で、前線に出てきた聖王もついに膝を屈してしまう。レイがその命を奪おうとした瞬間、空が文字通り割れた―
メイメイが話したこの世界の真実、それは、度重なるリィンバウムでの戦乱や召喚術の乱用により、本来世界を見守るべき存在である界のエルゴたちが狂気に侵され、リィンバウムを破壊しようとしているという驚愕の知らせだった。リィンバウムの崩壊は始原のエルゴの崩壊を招き、そして始原のエルゴの死は他のすべてのエルゴと世界の死を招く。すなわち界のエルゴたちの行動は文字通り自殺行為に他ならないのだが、既にそれすらわからないほど界のエルゴたちは狂っていたのだった。メイメイは、このような時を予見してエルゴの王が残した「始原のエルゴの欠片」を使って界のエルゴたちと戦うのか、勇者たちに選択を迫る。
戦場に現れた界のエルゴたちは、直ちに虐殺を始める。レイはこのような時のために、世界を統一し、その力を束ねて抵抗する準備をしようとしていたのだった。こうして、後に狂界戦争と呼ばれる、リィンバウム最大の戦争が幕を開けたのだった。
感想
今回は濃いですねー。そしてついに、作中の5世界と、ハヤトが召喚された「名もなき世界」との関係が明らかになりました。どうしてハヤトが誓約者になったのか、なぜ名もなき世界の召喚獣は4属性の術を使うことが出来るのか、召喚術よりも強力な送還術が廃れてしまったのはなぜかなど、ずっと引っかかっていた謎がさっくりと解けたのはシリーズファンとしては嬉しかったですね。後書きによれば、後付け設定だそうですが、いいんだよ面白ければ!
そしてここでゼルフィルドの登場は熱いなぁ。SN2ではラスボスを倒すため特攻自爆という漢らしい最後を見せてくれましたが、ストーリーの都合上ほぼ無駄死にだったんですよね(パートナーをレオルドにするとその辺り救われるんですが)。ぜひメルギトスとの決戦時にも活躍して欲しいですね。
しかし敵が界のエルゴだったとは。「狂界戦争」という名前の時点で気づいてもよかったと思うのですが、全く気がつきませんでした。SN5を見る限り、界のエルゴを倒して収束させたわけではないと思うので、この戦争をどう終結に導くのか楽しみです。そしてしぶとく生き残ったシャリマと、再び暗躍を始めたメルギトスの動向も気になりますね。あとホクトとケイナ・カイナの再会も。
あと1巻で終わってしまうのは悲しいですが、この話についてはむしろ完結を見たいというのが正直な気持ちになっています。半年後(9月)くらいに出てくれないかなー。
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2016-03-20
その内読みますと昨年10月に書いてから、どんだけかかっとるっちゅーの。
マグダラで眠れVII
著者:支倉凍砂
レーベル:電撃文庫
価格:630円(税別)
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あらすじ
クースラ一行が次に目指すのは、天使達による太陽の召喚により一夜にして滅んだというアッバスの町。そこで出会った書籍商・フィルは、クースラと同じく天使の伝説を追っており、さらにクースラが調べている異端審問官・コレド・アブレアの弟子だった。
アッバスの町には、シロクマを使った生け贄の儀式が行われており、フィルによると、その儀式は天使の伝説と関係があるのではないか―とのこと。儀式に用いられたシロクマが埋められた地面の土に何か秘密があるのではないかと考えたクースラ達は、早速その土を採取し、様々な物質と反応させて太陽の召喚を試みる。伝説をひもとき、ついに火の精霊を呼び出す「火の薬」の調合に成功するクースラ。しかし、その手柄を横取りし、火の薬を用いて世界を手中に収めようとする騎士団の密偵たちにより毒を盛られてしまう。命からがら逃げ出したクースラたちは町の有力者により匿われるが、密偵達が引き渡しの刻限として指定した時刻までは一晩しかない。
クースラは、自分のマグダラとは、仲間達との安穏とした生活であることを認め、それを守ろうと最後の実験に望むのだが―果たして太陽の召喚とは。
感想
今回もおもしろかったのですが、ストーリー的なおもしろさというよりは、科学的なおもしろさが前面に出てましたね。
「火の薬」はもちろん黒色火薬で、炭と硫黄と硝石(動物の死体の分解物)を混合することで作れます。これは僕も前提知識として持っていたので、シロクマの死体が出てきた時点で、「あ、今回のオチは火薬の爆発オチだな」と思ったわけです。
しかしさらにそこからさらなるどんでん返しを用意していたとは…さすが支倉先生です。おそらく最後にクースラ達が作ったのは、炭と太陽の欠片から作られた硝酸(※ところで炭素と硝石?から硝酸って作れるんですかね。そのあとの流れから硝酸としか思えないのでこう書いてますけど。教えて偉い人)と、硫黄と硝石から作られる硫酸を混ぜた混酸を、布(おそらくセルロースの割合が高い綿布)にしみこませて完成させたニトロセルロースだと思います(現代でも手品などでぱっと火をおこすときに使われていますね)。同じ材料でも扱い方次第で全く違った反応を引き出せるという科学の醍醐味がうまく現れていたように思います。
シロクマの肝が人体に有害だというのも初めて知りました。調べてみると、ビタミンA中毒になるそうですね。
もっとも、黒色火薬を作ってから数時間でニトロセルロースを作り出したのはいかにもご都合主義な感じはします。またクースラ達が暗殺されなかったのもたんに運が良かっただけなので(シロクマの肝などという毒性も致死量も不明なものを暗殺に使いますかね?しかもそのあとまんまと逃げられてるし)、全体のストーリー立ては若干荒さを感じたのは否めません。
とはいえ、それを差し引いても十分楽しめる1冊でした。しかしクースラの口から、
自分の中での世界というのは、狭い工房一つだけであり、広大な領土が欲しいわけではない。そこで静かに、誰にも邪魔されず、気の合う連中と実験に打ち込めればそれでいい。自分のマグダラの地は、そんなにも素朴なものだったのだ、と今ならよく分かっている。
※294ページより引用
なんて言葉が出るとは(実際には心の声ですけど)。
今巻ではウェランドとの関係を相当改善され、これまでのでこぼこパーティとは全然違う人間関係になっていますね。いよいよ終わりが近づいているのでしょう。時間で一区切り付くようですが、まだ完結ではないとのこと。これからどうなっていくのか楽しみです。8巻も既に購入しているので、その内読みます。
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2015-10-26
現在プレイ中の「うたわれるもの 偽りの仮面」ですが、非常に面白いです。正直バトルパートはそんなでもないですが(戦略性はあまり高くない)、ADVパートが楽しすぎる。登場人物はみんな魅力的だし、ストーリーは先が気になるし。特に主人公は、「働きたくないでござる」とか素で言っちゃうキャラなんですけど、何故か人から好かれる人物という設定があるのですが、その設定がうまく説得力ある仕方で描かれているのはさすがです。仲間達の軽口も楽しく、良質な小説を読んでいるような気分になります。声優さんの演技も良いし、これはおまけにSRPGがついたADVと考えれば全然OK。
それはそうと、今年もこの季節が来ましたね。
キノの旅XIX the Beautiful World
著者:時雨沢恵一
レーベル:電撃文庫
価格:530円(税別)
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レビュー
帯には「どんなに願っても 会えない 私は私に会えない」という言葉が書かれています。いつもこの部分は考えさせるフレーズが書かれていますよね。
19巻に収録されているのは、キノがメインの「幸せの話」「美しい記憶の国」「天才の国」「秀才の国」「戦えない国」「贋物の国」「撃ちまくれる国」、シズがメインの「首輪の国」「守る国」、師匠がメインの「捨てる国」、フォトがメインの「助けに来た国」でした。確か初めてだと思いますが、登場人物紹介もあります。といっても主要な人物の名前とSDイラストが描かれているだけですが。師匠こんなに目つき悪かったっけ?
今回断然面白かったのは「戦えない国」でした。いがみ合う6つの国家がひしめくとある国。しかし国家同士の戦争が起こらないのには理由があった。それは戦争を起こせば容赦なく殲滅するという脅しと共に上空から睥睨する1隻の飛行船が原因だったのだが―。先が読めたと思ったら、ひっくり返されるの繰り返しで、二転三転する話の筋に気持ちよく翻弄されました。オチも秀逸。二代前の王様、絶対悲惨な目に遭ったんでしょうね…
あとは後書きに掲載されている「十五歳の話」ですかね。キノの旅15周年ということで十五歳になった○○ーが描かれています。時雨沢先生、本当は学園キノが書きたかったんですね。黒星先生も全力で乗っかっているので十五歳○○ーを全力でお楽しみください。
来年はいよいよ20巻ですね。これまた感慨深いなぁ。キノの旅は短編集なので、さらっと読めるところが好きですよ。
人間の幸せは、必ずしも一つじゃない。よほど何かを極めようとしている人以外は、いくつもの幸せを同時並行的に追いかけている。それらの一つを得るたびに、その都度その都度、大なり小なり、幸せを感じられる。だから簡単に絶望しないで生きていけると言えるし、そうでないと人間として生きていけないとも言える」
※口絵イラストのベル「幸せの話」より引用
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2015-10-11
旅行中に読みました。マグダラで眠れの最新巻もその内読みますよ。
少女は書架の海で眠る
著者:支倉凍砂
レーベル:電撃文庫
価格:590円(税別)
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あらすじ
書籍商を目指す本好きの少年フィルは、自身の所属するジーデル商会の命令で、仲間のジャドと異端審問官のアブレアと共にグランドン修道院を訪れていた。修道院の所蔵する貴重な蔵書を買いつけるという、書籍商としての初仕事に胸を膨らませるフィル。しかし、修道院の図書館で彼を待ち受けていたのは、本を憎む美しい少女クレアだった。クレアはフィルたちを追い返そうとするが、それは修道士たちが疫病のためクレアを残して全滅し、それが知られるとクレア自身も教会から放逐される恐れがあったからだった。
教会の権力闘争に興味のないアブレアは、フィルに蔵書目録を作るよう命じる。その作業をこなす中で、フィルはクレアとの関係を深めていく。教会の蔵書は、クレアの父が寄贈したものだった。本の収集に没頭した父に対し、複雑な感情を抱くクレアの気持ちをどうにか解きほぐしてあげたいと考えるフィルだったが、時間だけが過ぎていく。
そして、ついに教会本部から査察がやってくることになった。これ以上教会の秘密を隠し通すことはできない。フィルはクレアを連れて教会を脱出しようとするが、クレアは父の思い出が詰まった本たちと離れることが出来なかった。最後にフィルが思いつく、起死回生の一手とは―
感想
支倉先生の小説「マグダラで眠れ」のスピンオフ作品です。といっても「マグダラ」に名前だけ登場するアブレアが生きていた時代と言うくらいの繋がりしか無いので、「マグダラ」は読んでなくても全く問題ないです(「読んでいればより楽しめます」というレベルですらない)。
今回は主人公もヒロインも年齢が低いので、その分恋の駆け引きとか命を賭けて貫くべき信念といったテーマは少なめになっています。クレアも達観しているキャラではなく、年齢相応の無茶なことも言ったりするキャラですし、主人公も人生を捧げる目標を探している途中なので、他作品に比べると感情移入しやすいかもしれません(その分キャラとしての魅力は薄めですが)。ストーリーが短いので、ヒロインの魅力が十分出来る前に終わっちゃった感もなきにしもあらず。続編が出たら是非読んでみたいですね。
アブレアはなかなかの狂人として描かれてましたが、脇役としての枠から決して出ることなく存在感を放っているのはなかなか。後世に名を残すような人はこんな感じだろうなぁと思わせられる説得力がありましたね。彼の、そしてフィルの本に対する考え方には色々考えさせられるところがありました。僕もお金持ちになったらでっかい書庫を作りたいですねぇ。
蔵書に隠された秘密や最後のオチについてはギリギリ予想出来るくらいでしたが、ご都合主義にならない程度に綺麗にまとめられていてさすが支倉先生だなぁ…と感心しきりでした。
私もそういう時期がありましたよ。本を読み終わるのがもったいなくて、面白そうだと分かっている本は開くことすらできなかった。始まらなければ、終わることもない、と真剣に思っていたのですよ。ですが、ある日、本にはその先があると気づいたのです。
※161ページから引用
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2015-10-04
ようやく登場人物図鑑の更新が終わりましたので、レビューしようと思います。既に発売から8ヶ月経ってるし、前巻の感想から1年以上経っているのですが…
しかし最近U:X関係の検索でこちらにたどり着いておられる方が多く、うれしい限りです。都月先生、新刊マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
あと「僕も既に購入し斜め読みくらいはしているのですが、きちんと読むのは今週末になりそうです。」と2月にコメントで言いながら完全に放置してしまい、申し訳ありませんでした >snさん
前巻までの感想はこちら。
→【小説】サモンナイトU:X 界境の異邦人 レビュー | Y.A.S.
→【小説】サモンナイトU:X ―黄昏時の来訪者― レビュー | Y.A.S.
→【小説】サモンナイトU:X ―叛檄の救世主― | Y.A.S.
サモンナイトU:X ―理想郷の殉難者たち―
著者:都月景
レーベル:JUMP j BOOKS
価格:780円
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あらすじ
クーデターで帝国を把握したレイは、ついに各地へ向けて行動を開始する。レルムの村を襲撃するソルと紅き手袋の暗殺者たちはハヤトたちとレックスたちによって、忘れられた島を襲撃した軍勢は抜剣者として覚醒したイスラによって退けられたが、かつての強敵たちが再誕したという事実は、不安をかき立てるのに十分だった。
一方単身派閥を抜け、サイジェントで保護されたクラレットは、弟キールの解呪に取りかかっていた。呪いの強力さに負けそうになったその時、ミコトの力により舞い戻った母ツェリーヌが彼女を救い、キールも無事呪いから解放されたのだった。
他方、シャリマたちは、強力な兵器ともなり得るラウスブルグを確保するために動いていた。メルギトスはラウスブルグを動かす古妖精の血を引くエニシアをとらえるためトレイユを襲撃。一方シャリマはトリスと共に、召喚兵器を率いてラウスブルグを襲撃していた。ラウスブルグの危機を知った仲間達の加勢、またメイトルパから現れた至竜コーラルの力により戦局は有利に運んでいた。城も膨大な魔力を有する謎の少女・フェアにより異界への撤退に成功。残されたシャリマも追い詰め、勝負は決した―かに思われた。
しかし、レイの登場により空気は一変。一方、転移の術を習得したミコトもその場に現れ、二人の制錬者は15年ぶりの再会を果たすのだった―
感想
今回一気に登場人物が増えましたね…。いきなり勇者たちの拠点が一斉に襲われるというなかなかショッキングな展開でした。勇者たちはかなりの力を持っているので、そこら辺の敵に苦戦してもらっても困るんですが、かといって敵もラスボス級なのであっさりやられると興ざめだし…というジレンマを上手く解消しつつ、拮抗する戦いを面白く描いて下さっているように感じました。しかしシャリマは強すぎだろ(純粋な人間の中では最強のような気がする…)。
メルギトスにしろシャリマにしろオルドレイクにしろ、どうしようもないほどの外道なのでカタルシスの得られる展開に期待していますが、レイの立ち位置はまだはっきりしませんね。おそらく次巻の冒頭辺りではっきりすると思いますが、それにより他のボスキャラたちの命運も決まるような気がするなぁ(レイの踏み台にされるか、因縁の敵と戦い華々しく散るか)。いずれにせよ次巻に期待です。
今回の見どころはやはりツェリーヌさんでしょうか。SN3ではオルドレイク全肯定という珍しいキャラ(部下でも全肯定している者はいないというのに)で、しかも無実の兵士達をあっさり虐殺したりしてまさに「死霊の女王」っぷりを遺憾なく発揮してくれました。しかし今回は普通の母親らしい感じでしたね…
こんなキャラだったっけ…とお思いのあなた、それではここでツェリーヌさん語録を振り返ってみましょう(以下、SN3や4のリメイク版で傀儡ユニットとして使った場合に聞ける会話です)。
ヤード
よろしいのですか?
我々に味方したりして・・・
ツェリーヌ
よいのですっ!
あの人には反省が
必要なのですっ!!
ヤード
ああ、夫婦喧嘩は
余所でやってほしい・・・
ミスミ
良人の過ちを正すのもまた
妻としての務めでは
ないのか!?
ツェリーヌ
あの人は間違っていません
余計なお世話です!
オウキーニ
勝ったらなんでも
ご馳走するさかい
気張ってやーっ!
ツェリーヌ
太っちゃったら・・・
どうしましょう・・・
ポムニット
で、本当のところはどうなん
ですか? 旦那様とは今でも
愛し合って・・・
ツェリーヌ
ですから、どうして貴女に
我が家の事情を赤裸々に語る
必要があるんですの!?
ポムニット
それが家政婦・・・
じゃなくって、メイドの習性
ですもので おほほほ!
ツェリーヌ
クビですっ、クビっ!
今すぐ出てってぇ~っ!!
…普通の妙齢の女性じゃん!
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2015-09-26
これが本当に最後なのか…榊ガンパレ、涙の最終巻。
ガンパレード・マーチ 2K 未来へ ④
著者:榊涼介
レーベル:電撃ゲーム文庫
価格:600円
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あらすじ
熊本からカーミラ領へ、生き残りの学兵たちを連れて撤退を続けてきた5121小隊だったが、敵の攻撃は次第に大規模なものになり、一行の疲労は限界に達しつつあった。一方、中央では再び政争が激化し、5121の後ろ盾である大原政権は倒れようとしていた。その影には、日本に米軍を駐留させようとするワシントン政府の思惑があった。
大原首相は、政敵である大熊幹事長を国家反逆罪で拘束するも、ワシントン政府の圧力に負け、カーミラとの歩調を合わせることが出来なくなってしまう。それはすなわち、5121がカーミラに助力することもできないということであった。折しもカーミラは日本に侵攻する別の幻獣王の軍により負傷、アキレス腱である阿蘇を失う寸前に追い詰められる。全ての希望が潰えた5121は―
感想
まさかの最終巻でした。とても1冊で風呂敷をたためるような話ではなかったので心配していたのですが、残念ながら打ち切りENDと評価せざるを得ない終わり方だったように思います。後書きを見ても出版社と何かあったような感じを受けますし、帯には「あと少しだけでも、何とかしたかった……!」とありますし…悲惨な戦争を正面から描きつつも、どこかハッピーエンドを期待させるのがガンパレの、そして榊ガンパレのいいところだっただけに、絶望的な状況で打ち切られてしまったのは正直納得がいきません。この戦争を生き残ったみんなには幸せになる権利があるはずなのに。前巻だってまだ話が終わるような雰囲気ではなかったですから、発売延期の件も含め、何か良くない力が働いたのではないかとどうしても勘ぐってしまいます。そうでないことを祈りますが…
話自体は普通に面白かったのですが、これは起承転結で言えば「転」のおもしろさなので、結が存在しなくなった以上その評価をすることは出来ません。あしからず。正直これなら最後あっちゃんが士翼号無双で敵を一掃し、「俺たちの戦いはこれからだ」エンドにしてくれた方がまだましだったような…。それにしてもこれは年表作りに支障を来しそうだなぁ…
なお榊先生の名誉のために(そしてガンパレにあまり詳しくない読者のために)言っておくと、原作でも、黒い月の正体(の一部)は第6世界(ガンパレの世界の並行世界)から第5世界(ガンパレの世界)に流れ着いた士翼号(高性能な士魂号だと思いねえ)で、士翼号はその後速水の乗機になっていますから、あのエンディングは榊先生の暴走ではないです。その他、幻獣が並行世界(第4世界)の人間が変じた姿であること、阿蘇が幻獣にとって重要地点であること(第4世界とのゲートが阿蘇山にある)、ドイツが幻獣共生派になっていることなども原作設定なので…
とにかく残念だったとしか。大好きなシリーズだったのになぁ。いや、今でも大好きですし、もし出版社がうつるとか、ウェブ上とか、同人誌で続けるとかならがっつり付いていきます。
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